人気ブログランキング | 話題のタグを見る

<村木厚子・元厚労省局長無罪判決>5 マスコミ報道から 毎日新聞社

クローズアップ2010:障害者郵便割引不正 村木元局長無罪 暴走した特捜部
2010年9月11日 毎日新聞大阪

 ◇指弾された裏付け不足
 厚生労働省元局長、村木厚子被告(54)に無罪を言い渡した10日の大阪地裁判決は、客観的証拠を厳密に分析し、検察側が有罪判決に向け望みを託していた一部の供述調書や証言について「客観的証拠と合致しない」と退けた。有罪の立証を捜査段階の供述調書に頼る検察に対し、厳しい見解を示したと言える。無罪判決を受けて検察側は、控訴するかどうか本格的な検討を始めた。【日野行介、久保聡、三木幸治、鈴木一生】

 実体のない障害者団体「凜(りん)の会」に郵便料金の割引を認める厚労省の偽証明書が発行された郵便不正事件で、最大の物証は元係長、上村勉被告(41)が作成した村木元局長(当時課長)名の偽証明書と、その発行手続きが省内で進んでいると装う偽の決裁文書(稟議書(りんぎしょ))だった。凜の会の倉沢邦夫被告(74)は偽証明書について「04年6月上旬に省内で村木元局長から受け取った」と証言。検察側はこれに有罪の望みを託していた。

 しかし判決は、上村被告がパソコンで偽証明書を作成した際、フロッピーディスクの最終更新日時が「6月1日午前1時20分」だった点に着目し「5月31日深夜から6月1日早朝までに作成」と認定。上村被告は5月以降、凜の会から証明書発行を催促されており、判決は「作成当日に連絡するのが合理的で、証明書交付は6月1日だと強く推認される」と判断。そのうえで、倉沢被告の手帳によると6月1日は関西にいたことから「受け取るのは不可能」と断じた。

 上村被告は5月中旬、凜の会に対して証明書の発行手続きを進めていると装うため稟議書を偽造した。これについて判決は「証明書の発行が組織ぐるみで決まっていたなら、上村被告が村木元局長らに相談することもなく偽稟議書を作成するのは不可解」と指摘。上村被告は偽証明書の発行までに、いわば「時間稼ぎ」を1人で行っていたことになる。

 こうしたことから判決は、「偽証明書は独断で作成した」とする上村被告の証言に軍配を上げ、村木元局長が関与したとする検察側の構図を否定。さらに判決は「村木元局長が5月中旬ごろ、倉沢被告の目の前で当時の郵政公社幹部に電話し『証明書の発行は間近』と伝えた」とする検察側主張を検討。「電話の(後に事態がスムーズに進んだなどの)効果など、電話の事実を裏付ける痕跡がない」と、裏付け捜査の不足を指摘し、主張を一蹴(いっしゅう)した。

 判決は最後に「人間の供述は認識、記憶、表現の3段階で誤りが混入する可能性がある。供述の具体性や迫真性は後で作り出すことも可能で、客観的証拠の裏付けのない供述についての信用性は慎重に判断すべきだ」と指摘。客観証拠より供述調書に頼る特捜部の捜査に警鐘を鳴らした。

 ◇幹部のチェック不全
 「国民の期待も関心も高い特捜部の事件だけに、裁判所の判断は重い」。無罪判決に法務・検察幹部らは一様に表情を曇らせた。

 「どうしてあんな取り調べになるのか」。ある幹部は、元係長の上村被告ら主要な関係者が公判段階で次々と供述を覆した点に首をひねった。「元係長が『(検事が取り調べで)自分の話を聞いてくれない』と不満を抱いていた。物証の少ない特捜事件では、信頼関係を基に話をさせて心証を得ないといけないのに信じられない」

 別の幹部は「チェック機能が働かず、特捜部の暴走を止められなかった。下の報告をうのみにせず、幹部が『これに反する証拠があるんじゃないか』とチェックしないと」と指摘する。また「パソコンで簡単に情報を得られる時代の影響なのか、最近の若い検事は聞いた話が本当なのか吟味せず、つなぎ合わせて簡単に調書をつくってしまう。供述の裏付け捜査など、当たり前のことができていない」と若手の教育に言及する首脳もいた。

 とは言え、一部で捜査の不備を認めつつ「完全無罪」を疑問視する声もある。ある幹部は「元係長が独断で偽造し、上司の村木さんは何も知らなかったのか。この事件は『金太郎あめ』のように、どこから切っても必ず無罪になるとは言えない」と語る。

 判決の指摘を受け入れて無罪を確定させるのか、それとも控訴に踏み切るのか。大阪高検のある幹部は、証拠請求した8人の捜査段階の供述調書計43通のうち34通が採用されなかったことを問題視。「これだけ多くの供述調書が証拠採用されなかった例はない。(裁判官の)法令違反ということも考えられないか検討し、対応を慎重に協議する」と話す。

 一方で「高裁で逆転有罪に持ち込める見込みがあるなら控訴するが、あくまで証拠で判断すべきだ」との意見もある。不採用とされた調書については「客観的な証拠と矛盾している以上、高裁が採用してくれる可能性は低い」との見方も。過去には、捜査にミスがあり1審で無罪とされた事件で、控訴を断念したケースもあった。


<以下引用>
◆障害者郵便割引不正:厚労省元局長判決(要旨)
 2010年9月11日 毎日新聞

 大阪地裁で10日、厚生労働省元局長の村木厚子被告(54)に言い渡された無罪判決の要旨は次の通り。

 ◆倉沢被告から石井議員への口添え依頼の有無

 検察側は04年2月下旬ごろ、倉沢邦夫被告が有力国会議員である石井一参院議員に対し、「凜(りん)の会」への公的証明書発行に関し口添えを依頼した事実があったと主張する。倉沢被告の手帳には「13:00 石井一(中略)木村氏」との記載がある。これは倉沢被告の公判供述のうち、倉沢被告が河野克史被告の要請を受けて、石井議員への口利き依頼の目的で石井議員の事務所に2月25日午後1時のアポイントメントを取った--とする内容を裏付けているといえる。しかし、石井議員は当日、午前7時57分から午後2時ごろまで千葉県内のゴルフ場にいたことはゴルフ場への照会結果から明らかで、面会は不可能だった。結局、手帳の記載は、面談の事実を認定する証拠にはならない。

 一方で、予定を変更して倉沢被告が2月25日以前に石井議員と面談した可能性は完全には否定できないものの、倉沢被告の手帳にそのような記載もなく証拠上、疑わしい。

 ◆塩田元部長から村木元局長への証明書発行の指示

 厚労省障害保健福祉部の塩田幸雄元部長の検察官調書には、村木元局長に対し「議員案件」の重要性を告げたうえで公的証明書を発行する方向で処理するよう告げ、部長室で村木元局長に連れられた倉沢被告と会った、という趣旨の記載がある。しかし、倉沢被告の自宅などから他の関係者の名刺は見つかったのに塩田元部長の名刺はなく、倉沢被告も塩田部長とあいさつしたことはないと公判で供述した。また当時の部内の状況をみても、石井議員の機嫌をとるため、公的証明書を発行する方向で処理しなければならなかった事情はなく、信用性に疑問が残る。

 これらの点を総合すると、倉沢被告から石井議員への口利き依頼▽石井議員から塩田元部長に対する電話による要請▽それに応じた塩田元部長の村木元局長に対する指示--などについては、あった可能性は認められるものの、供述だけで認定することはできない。

 ◆村木元局長は上村被告に証明書の発行を指示したのか

 倉沢被告は「厚労省で村木元局長から公的証明書を受け取った」と公判供述した。上村勉被告のフロッピーディスクのデータからは、公的証明書は前夜から6月1日早朝までかかって作成されたとみられ、早期の発行を「凜の会」側から求められていた証明書を翌日以降に交付したとみるのは不自然。しかし倉沢被告の手帳によれば同日、午前6時50分東京発の「のぞみ」で大阪に行き、関西に滞在しており、交付は不可能だった。

 (係長だった)上村被告が(課長だった)村木元局長から指示を受けず、独断で公的証明書を発行することは一般人から見ると不自然であるが、稟議(りんぎ)書の独断発行など、上村被告の行動傾向に照らすと不自然とはいえない。その一方で、実体自体が怪しい団体に対し、資料提出や決裁もないままに公的証明書を発行するという、さらに問題性の強い行為を村木元局長がすることは不自然。こうした状況に照らすと、倉沢被告の公判供述が上村被告の公判供述以上に信用性が高いとはいえない。

 ◆偽証明書の受け渡し

 また、公的証明書が厚労省から「凜の会」に渡った経緯について、「凜の会」の発起人である河野被告は極めてあいまいな供述をしている。公的証明書の取得に関し、「凜の会」内部で中心的に活動していた河野被告が、「凜の会」側に公的証明書が渡った経緯について全く知らないということは考えにくく、河野被告の供述は不自然。河野被告の検察官調書供述および公判供述はいずれも信用性に疑問があり、上村被告の供述を否定するほどの信用性は認められない。

 ◆偽証明書の作成を指示する動機

 検察側の主張の中核は、「村木元局長は凜の会が障害者団体としての実体がないと知っていたが、石井議員から塩田元部長に依頼があった『議員案件』だったため、上村被告に命じて日付をさかのぼらせた公的証明書を発行させた」というもの。しかし、石井議員から塩田元部長への電話での口利きに関しては、客観的証拠と整合しない面があるうえ、塩田元部長の検察官調書全体の信用性に疑問が生じ、認定できない。また、村木元局長が、今回の公的証明書の発行が「議員案件」だとの認識を持ったきっかけだったと検察側が主張する根拠は塩田元部長が「証明書を発行する方向で処理するよう告げた」とする供述だが、これも不自然だ。また6月上旬ごろ、倉沢被告が村木元局長に対し日付をさかのぼらせて「凜の会」に対する公的証明書を発行するよう要請し、村木元局長が了承した、との事実も証拠上、認めることはできない。

 以上のことからすると、検察側が主張したように「凜の会」の案件が、公的証明書を発行することが課内で決まっている「議員案件」であったことにつながり得る事案はいずれも認定できない。結局、村木元局長が本件犯行を行う動機があったとは認められない。加えて、上村被告が虚偽の稟議書などを独断で作成していることなどの事情もみられることからすると、上村被告による公的証明書の作成が村木元局長の指示によるものだったとする事実も認められない。

 そのほか、本件証拠上認められる事実を総合しても、村木元局長が上村被告、倉沢被告、河野被告と虚偽の公的証明書を作成し、凜の会側に交付するとの共謀があったと認定することはできない。

 よって、本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言い渡しをする。
by negitoromirumiru | 2010-09-12 11:39 | 福祉 | Comments(0)


<< <村木厚子・元厚労省局長無罪判... <村木厚子・元厚労省局長無罪判... >>