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ジョーゼフ・キャンベル『神話の力』-12

【この本と出会った】作家・真藤順丈 『神話の力』
2010.7.4 産経新聞

 □ジョーゼフ・キャンベル、ビル・モイヤーズ著 飛田茂雄訳

 ■目からうろこの普遍的ストーリー  
 一昨年に新人賞をいただき、「締切(しめきり)」というまるでなつきやしない座敷犬のようなモノが暴れまわる仕事場で、依頼されて原稿を書けるようになった僕は、小説家として生き残るための作法的なフレーム、(そんなものはないとわかっていながら)マニュアルになりそうなものを、切実に欲していた。
 編集者のすすめで襟を正して『神話の力』を読んだ。のっけから何度も語られる、〈天球の音楽〉という言葉に、「カマトトぶっちゃって」と思いながらも、無性に引きつけられた。
 まるっきり異なる風土や文化圏にあっても、世界各地の神話には共通するストーリーがあるそうだ。人類共通の普遍的な感情、成長や変化、人生の旅。そういうものが神話には組みこまれ、我われの結婚や性生活などの日常事にまで連なっている。イデオロギーを離れたもっと感覚的なもの。それが「天球の音楽」と表現されていた。
 僕はハタと膝(ひざ)を打った。沼地の羽虫のように頭のまわりに渦巻いていた、言葉にできない感覚が、晴れた気がした。
 自著『バイブルDX』(メディアファクトリー)では奇蹟(きせき)の専門誌を創刊しようとする編集者たちの物語を書いた。
 「なんとなくジーザスな感情がクライストする感じ」
 としか担当にプレゼンできなかった僕のもどかしさを『神話の力』は晴らしてくれた。
 どんなに荒唐無稽(むけい)で奇をてらった物語でも、僕たち小説家は読者の大事なものをカタにとる力量がないといけない。普遍的なものにタッチする生気や深み、ストーリーの奥に眠るストーリー。それは常に、神話とリンクしているんじゃなかろうか。
 『バイブルDX』では宝探しの神話性をもったエンタテイメントを書いたつもりだ。英雄譚(たん)でも悲劇でも、自分なりの〈天球の音楽〉を育(はぐく)めれば、僕はこの後の人生も小説を書きつづけられるのかもしれない。(ハヤカワ・ノンフィクション文庫・1050円) 
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【プロフィル】真藤順丈
 しんどう・じゅんじょう 昭和52年、東京都出身。平成20年『地図男』でダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞してデビュー。『庵堂三兄弟の聖職』で日本ホラー小説大賞、『RANK』でポプラ社小説大賞特別賞など、同年の主要新人賞4賞を獲得。今年3月『バイブルDX』刊行。
by negitoromirumiru | 2010-08-14 00:52 | 箪笥 | Comments(0)


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