心療内科(5) 心身症を治療 精神科と別
2010年7月20日 読売新聞
盛岡友愛病院副院長・心療内科部長 千葉太郎
心療内科について、盛岡友愛病院副院長で日本心療内科学会専門医の千葉太郎さんに聞きました。
――心療内科とはどんな診療科ですか。
体の病気が発症したり症状が悪くなったりする時、ストレスが関係することがあります。こうした病気の状態を「心身症」と呼び、普通の治療法だけでは良くなりにくいことが多いのです。このような患者さんを診断し、治療するのが心療内科です。
――具体的にはどんな病気が対象ですか。
たとえば薬を使っても良くならない高血圧や、再発を繰り返す胃潰瘍、ストレスと関連して起きる気管支ぜんそくなど。ほかにも慢性の痛み、糖尿病、摂食障害など、あらゆる病気が対象となり得ます。
ぜんそくの患者さんに対し、心と体の両面から診る「心身医学」的な治療をした方が、通常の内科の治療より改善度が高い――という研究結果もあります。
――精神科とどう違うのですか。
よく誤解されるのですが、精神科は、うつ病や統合失調症、不安障害といった心の病気(精神疾患)を診る診療科です。心療内科は、内科の病気に対して心理療法も行う科として誕生しており、そもそもは内科の病気を診る科なのです。
――でも、うつ病も診ている心療内科クリニックはたくさんありますね。
実は、「心療内科」という看板を掲げている医療機関の多くは、精神科医が診療しています。精神科の受診に抵抗のある人が多いからです。一方で、うつ病の診療をしている心療内科医もおり、違いが分かりにくくなっています。
――すると、どうすれば“本物の”心療内科医の診察を受けられるのですか。
そもそも数が少なく、日本心療内科学会が認定した専門医は27都道府県にわずか107人。学会のホームページに専門医の一覧が載っていますので、参考にしてください。
現在、心療内科医を養成する講座のある大学は全国に5大学しかなく、もっとこうした大学が増えないと医師も増えません。
また、治療に手間と時間がかかる割に、心身症患者への「心身医学療法」の診療報酬が非常に低く、このため心療内科は病院の不採算部門になっています。診療報酬を上げ、心療内科医が活躍できるよう環境を整えることも必要です。(山口博弥)
【情報プラス】
心療内科医の現実
「娘が引きこもっていて、精神的に不安定で暴れるんです。ぜひ今日、診てもらいたいのですが……」患者や親から病院にかかってくるこうした電話を、千葉さんはよく受けます。
精神科の受診を勧めると、「心療内科は心を診る科ではないのですか」「精神科とどう違うの?」という問いが必ず返ってくるそうです。
盛岡友愛病院には精神科がないため、どうしても精神疾患の患者が心療内科を受診してしまいます。その結果、現在、千葉さんが診ている患者の8割は、うつ病など心の病気の患者なのです。
では、本来、心療内科医が診た方がいい心身症の患者はどうなっているかというと、自分では心身症であることに気づきません。体を診る医師も心身症だと疑わないため、なかなか心療内科に紹介しません。
千葉さんは「われわれ心療内科医は、本当は内科医療に貢献したいのに、精神科医療のお手伝いをしている」と自嘲(じちょう)気味に語ります。
しかし、発症にストレスが複雑に絡んでいる病気は、内科の病気だけに限りません。整形外科や産婦人科、歯科などでも、体と心の両面を診る「心身医学」的な治療が有効なことがあり、日本心身医学会には様々な診療科の医師が所属しています。いま一度、こうした治療に注目すべきではないでしょうか。
1回目の記事で登場していただいた日本心療内科学会理事長の中井吉英さんは「心身医学的な治療は、内科だけでなくすべての科に求められる。各大学に心身医学の講座を作り、診療報酬も見直す必要がある」と訴えています。
(春之介のコメント)
記事を読んで驚いたことは、学会認定専門医は27都道府県にわずか107人という数字だ。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jspim/PDF/map/senmoninihontizu_2.htm
そして全国に、5大学(九大・東大・東邦大・関西医大・鹿児島大)にしか講座がないという。
巷では、「心療内科」の看板を掲げているが、専攻は精神医学の医師がほとんだということである。
まあ、「うつ病」がこれだけ知名度を上げると精神科・神経科の敷居は緩やかになっているのが昨今のこと。
心療内科医は、細々とやっているという印象ですね。
<以下一部参考引用>
◆
「内科」「心療内科」「精神科」「神経内科」の区別について
①内科=内科領域の身体疾患を身体面から医療を行います。
②心療内科=内科領域、各科領域の身体疾患を心身両面から医療を行います。心身医療が各科で行われるようになれば、心療内科は内科領域だけということになりますが。 心身症は病名ではなく病態です。心身症の定義は「心身症とは身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし神経症やうつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する」(日本心身医学会 1991年)となっています。以下、(心身医学のテキストブックを参考に)代表的な心身症をあげておきます。
1 消化器疾患
FD(Functional dyspepsia 機能性胃腸症)、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、慢性膵炎、食道アカラシア、びまん性食道けいれん、難治性・再発性胃潰瘍、十二指腸潰瘍、機能性腹痛など
2 慢性疼痛
各科の腹痛、頭痛、腰痛、胸痛、顔面痛などの慢性続く痛み
3 各科のがん
サイコオンコロジー(精神腫瘍学)に基づくがん患者さんの治療やケア
4 アレルギー疾患
難治性気管支喘息、アトピー性皮膚炎、慢性じんましん
5 循環器疾患
原因不明の胸痛や動悸、動揺性高血圧症、発作性頻拍症、ストレスが関与する虚血性心疾患
6 内分泌疾患
コントロールの難しい糖尿病、甲状腺機能亢進性、肥満症など
7 神経疾患
片頭痛、緊張型頭痛、痙性斜頚、書痙、めまい症など
③精神科=精神疾患を精神面より医療を行います。
精神疾患は多岐にわたります。統合失調症(精神分裂)、躁うつ病、うつ病、各神経症(不安障害、社会恐怖、強迫性障害など)、不眠症、てんかん、アルコールなどの薬物依存、せん妄、痴呆、健忘など、人格障害、そのほか多岐にわたります。
④神経内科=神経内科は脳神経系の器質的な病気を診ます(精神科が脳の機能異常を診るのに対して)。
その中でも内科で医療できる病気です。(外科で医療しなければならない場合は脳神経外科です)。わかりやすく言いますと、脳神経系が炎症や変性などにより物理的に障害された病気を診るわけです。たとえば、パーキンソン病、脳梗塞、多発性硬化症、脊椎小脳変性症、進行性筋ジストロフィー、三叉神経痛などの病気です。
神経内科を神経症(ノイローゼ)を診る科と誤解されている人が多いのに驚かされます。