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精神病院を捨てたイタリア―捨てない日本

『精神病院を捨てたイタリア―捨てない日本』(岩波書店)[著]大熊一夫
2009年12月13日 朝日新聞書評
[評者]柄谷行人(評論家)

■「地域精神保健」という試み

 著者は元新聞記者で、1970年にアルコール依存症を装って精神病院の鉄格子の中に入り、その体験を朝日新聞に「ルポ・精神病棟」として連載した。それは地獄のような世界であった。その後も著者は、この“地獄”をなくすにはどうすればよいかを模索してきた。いろんな改革案に出合ったが、それらはあくまで精神病棟の存在を前提にしたものだ。80年代に、著者は画期的な方法を知る。それは精神病棟そのものを廃止し、そのかわりに、地域精神保健センターを作るというものである。

 これは、イタリアの精神科医フランコ・バザーリアが60年代に始めた運動である。精神病棟の廃止に対して、病人が凶暴になったらどうするのか、という反論がある。しかし、それは概して、精神病院に強制的に入れられたり拘禁服を着せられたりする結果、生じる反応である。原因と結果がとりちがえられている。また、精神病院がなければ病人は治癒しないのではないか、という反論がある。しかし、精神病院でも病人が治癒するわけではない。大切なのは、たとえ病気がなおらなくても、彼らが一般社会で生きていける環境を作りだすことである。バザーリアが始めた運動は、それを実現した。

 地域精神保健システムは、イタリアだけでなく、60年代に世界的に広がった傾向であった。たとえば、68年にイギリスの医師デービッド・クラークが世界保健機関(WHO)から委嘱されて来日し、精神病棟を減らすように勧告している。日本側はこれを無視した。その結果、日本は現在、経済的先進国の中で人口当たりの精神病棟が格段に多い国となった。最近は「地域精神保健の時代到来」と叫ばれているが、本質的には何も変わっていない。

 一方、イタリアでは、20世紀の末には保健省管轄のすべての精神病院が閉じられた。この本の表題は、日本とイタリアの違いがいかにして生じたかを示すものである。しかし、本書には、日本にも、数少ないながら、地域精神保健センターの試みが各地でなされていることが紹介されている。

 大熊一夫 おおくま・かずお 37年生まれ。朝日新聞記者を経て大阪大学大学院教授を務めた。

(春之介のコメント)
イタリアは、精神病棟を廃止するという選択肢をとったが

日本は隔離収容するという政策をとり続けている。

最近は医療費削減という背景のもとで、地域医療を整備しようと掛け声をあげてはいるが…

私立精神科病院による、暴力と搾取についてはかなり問題になった。

それから、法改正が進み患者の人権に配慮しているとされている。

ただ長期にわたる隔離収容の弊害で、入院患者が退院しても社会適応できないといった問題が発生

加えて、受け皿となるものを十分には整備しきれていない。

今まで、病院にいたものが生活保護を受けてひっそりとアパートで暮らすといった感じだ。

その先に、再発や再入院といった事態に陥る。

日本でも、地域連携システムを長期にわたって構築し研究している。

ただ、患者の多くは高齢化し他の病気も抱えながら退院し社会で暮らしていくにはおぼつかないのが現状だ。
by negitoromirumiru | 2009-12-16 22:37 | 躁鬱 | Comments(0)


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