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直葬3

【直葬~消える弔い~】(中)仏教界 ズレ自覚
2009.9.23

 「葬式仏教」という言葉があるほど日本の仏教は葬式と密接なかかわりを持ってきた。葬式をせずに火葬や納骨が行われる「直葬」の増加に、仏教界の危機感は強い。
 浄土宗が9月3日に、大正大学(東京都豊島区)で開いた学術大会で、仏教界の危機感を象徴する発表があった。
 浄土宗総合研究所が宗門の7045寺院を対象に、葬儀の実態を探ろうとしたアンケートがそれだ。調査に携わった淑徳大学の武田道生准教授は、「各地で葬式の形が激しく変わっているのに、宗教の側が対応し切れていない」と研究目的を説明する。
 家族葬(密葬)のような規模が小さい葬式の経験について訪ねたところ、44%が「増えている」。葬式をせずに、火葬場の炉前で簡単に経を唱えるだけというスタイルの直葬を経験した僧侶が、4%にのぼることなどが判明した。
 「だが、直葬に僧侶が呼ばれることは極めてまれ。4%という数字の背後には、直葬の相当な広がりを推測できる」と武田さん。
 調査結果を地域別に分析するなどして、一線の現場で役立てる構想だという。


横浜市内の寺院の9割にあたる434寺院で組織する横浜市仏教連合会では10年ほど前に「時局対策委員会」を立ち上げた。葬式の変容が激しいことへの危機感が背景となった。各寺を通じ、宗教的に正しい葬式や通夜の在り方などを啓発している。
 それでもこの2、3年、葬式をしないで直葬を選ぶ檀家(だんか)が目立ってきたという。対策委員長の佐藤功岳住職にも経験がある。毎年、盆の供養に訪れている檀家から、「実は母が亡くなって、火葬してしまったんですよね」という知らせを受けてびっくりした。
 「費用のことを考えて葬式を遠慮してしまったようだ。長い付き合いなのだから、お布施はいただかなくてもいいのに」と佐藤さん。「寺がもっと葬式の意義などを積極的に社会に情報発信するとともに、檀家との距離感を縮める必要がある」と考えている。

 増える直葬と、消える弔いの儀式。それは現代人の宗教心が失われたからの現象なのか。
 人の死を描いたアカデミー賞映画『おくりびと』。1年を超えるロングランとなり、観客動員数は560万人を突破した。だが、映画は見る者の宗教的感情には訴えるものの、僧侶の登場はなかった。


 テノール歌手、秋川雅史さんが歌う『千の風になって』は100万枚を超える売り上げを記録した。歌詞は「そこ(墓)に私はいません 眠ってなんかいません」。宗教心を刺激するものの、伝統的な弔いの光景とは、ほど遠い内容だ。
 「世間の感覚と、宗教者にはズレがある」。多くの人が指摘し、宗教も自覚しはじめている。
 僧侶たちが直面する課題を扱って話題となった本がある。東京工業大大学院の上田紀行准教授の『がんばれ仏教!』(NHKブックス)、神宮寺(長野県松本市)の高橋卓志住職の『寺よ、変われ』(岩波新書)。僧侶だけでなく、多くの一般読者を得てベストセラーになった。
 2冊とも、苦境にある仏教を憂い、寺の再生に思いを寄せている。上田さんは、ボランティア活動などで多くの人との関係を築こうとする僧侶たちの活躍を紹介。高橋さんは「寺と僧侶は、死者だけを相手にするのではなく、生きる人の支えや助けにならねばならない」と訴える。
 寺と世間の距離が埋まることはあるのだろうか。少なくとも、この数年の直葬の急増ぶりは、それが容易ではないことも示している。
by negitoromirumiru | 2009-10-01 16:02 | 生活 | Comments(0)


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