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直葬2

【直葬~消える弔い~】(上)消えてしまいたい
2009年9月22日 産経ニュース

 「消えてなくなりたい」。鈴木三保子さん(74)=千葉県市川市=は、自分の死後についてそう考えている。
 「葬式も戒名もいらない。死を知らせる親族は最小限。親しい知人らには納骨後に知らせて。家は取り壊して更地にしてほしい」

 今年8月、遺言にそう書いた。7年前に母=当時(95)=を亡くしてから一人暮らし。でも旅行仲間も多いし、頼れる親戚(しんせき)もいる。孤独ではない。

 「葬式をすることで、親族や他人の時間を拘束したくない。誰にも迷惑をかけないで、消えるように死にたいの」と笑う。

 大畑枝美さん(75)=仮名、東京都北区=も、同様の遺言を2年前に書いた。30年前に離婚、一人で暮らしている。

 「死後に若い人たちに迷惑や負担をかけるのは耐えられない。自分は十分幸せに生きてきた。最期は高温で火葬してもらい、灰になって消えてしまいたい」

 世話になった人の宛名を書いた10通の封書を、遺品として本棚に用意している。

 「簡単な手紙と、再婚話があったときに撮った写真が入っているの。私の人生のベストショットよ」

 2人が火葬や遺品整理などの事務を託すのが「NPO法人りすシステム」(東京都千代田区)だ。平成5年の設立以来、約2200人と死後事務の契約をしている。多くが子供がいなかったり、子供や親族の世話になりたくないという人たち。夫婦での契約もあれば、1人での契約もある。

 杉山歩代表は、「8割が『葬式はいらない』という人」と話す。「周囲に迷惑や負担をかけたくない」「葬式に呼びたい人がいない」「何もされたくない」「肉親がいない」「寺と付き合いがない」…事情は人それぞれだ。


 通夜や葬式をせず、火葬と納骨だけ。参列者はごく少数。セレモニーも簡素。

 「直葬」と呼ばれる葬送スタイルが10年ほどで急増している。統計はないが葬儀関係者らの間では、東京の都心部では2~3割になるという話が交わされる。

 ニーズに合わせ、多くの葬儀社が「直葬プラン」を打ち出すようになったのはこの5年ほど。インターネットには、「火葬のみ」「心温まる直葬」「直葬のコツ」などの文句が並ぶ。

 安さと簡素さを前面に出した宣伝も目立つ。

 生花を扱う「日比谷花壇」(東京都港区)は今年6月に直葬を意識した商品をつくった。数人の身内が集まる火葬場の一室で、同社スタッフと遺族が30分ほどかけて生花で故人を彩る。「おくりばなの儀」と名付けられた。読経も焼香もない。

 同社広報室によると、毎月数十件の問い合わせがある。3割は「自分が死んだときには」という生前予約の問い合わせだ。


 雑誌「SOGI」の編集長で葬送ジャーナリストの碑文谷創(はじめ)さんは直葬増加の主な理由に、価値観の多様化、人口構造の変化などを指摘する。

 とりわけ人口の高齢化は大きな影響を与えた。80歳以上で死ぬ人は5割に迫るところまできた。現役時代と比べれば、本人と社会との関係は薄い。子供(喪主)が定年を迎えていれば、葬式への参列者は極端に減る。本人も遺族も、「ならば、僧侶も呼ばずに」という選択につながる。

 昨年の65歳以上の1人暮らしは414万世帯にもなった。子供がいない人や、別居などで親子関係が薄い人が増えていることも、弔いの光景を小規模で簡素なものにしていく。

 碑文谷さんは、「本人や遺族が、最善の弔いとして直葬を選ぶことはありえるし、今後も増えるだろう」と肯定しつつも、「人間関係や親子関係の希薄化が、直葬を増やしている部分もある。それは死者や命の尊厳になるのだろうか」とも指摘している。

 「直葬」と呼ばれる簡素な葬送スタイルが増えている。なぜ、葬式など弔いの儀式が姿を消しつつあるのか-。秋の彼岸。現代の葬送事情を考える。
by negitoromirumiru | 2009-10-01 16:01 | 生活 | Comments(0)


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