ALS介護拡大義務づける判決
2012年4月25日 NHK本局 18時27分
筋肉が動かなくなる難病、ALS=筋萎縮性側索硬化症の患者の男性が、和歌山市に24時間の介護サービスを求めた裁判で、和歌山地方裁判所は「現在のサービスでは生命や健康の維持に重大な危険が発生するおそれがある」として、今の一日およそ12時間から21時間以上への拡大を義務づける判決を言い渡しました。
この裁判は、ALSで寝たきりの和歌山市の70代の男性が、数時間ごとのたんの吸引や人工呼吸器の管理などが必要なため、和歌山市が決めた一日およそ12時間の介護サービスでは不十分だとして市に24時間の介護サービスを求めたものです。
判決で、和歌山地方裁判所の高橋善久裁判長は「男性は、ほぼ常時介護サービスを必要とする状態だ」と指摘しました。そのうえで、「妻の負担などを考慮すると少なくとも21時間は必要で、現在のサービスでは生命や健康の維持に重大な危険が発生するおそれがある」として、今の一日およそ12時間から21時間以上への拡大を義務づける判決を言い渡しました。
介護サービスの時間は、市町村が決めますが、
ALSの患者に対する介護サービスの時間の拡大を義務づけた判決は全国で初めてだということです。
原告側の池田直樹弁護士は「自治体が判断する障害者の介護認定に関して、裁判所が一定の判断を示したことは画期的で、全国の自治体にも大きな影響があると思う」と話していました。
また、和歌山市の大橋建一市長は「判決文の内容を確認してから今後の対応を検討します」とコメントしています。
(春之介のコメント)
この一審判決の意味は大きい。
行政の裁量に任されている自立支援法で、行政の考える介護サービスがいかに不十分であるかを裁判所が認定したもの。
家庭状況などの実態に即したサービス給付を行政に命じたものだ。
むろんALSのみならず、難病や幅広い疾病や障がいの介護サービスにも影響を与える。
これで全国で同様の困難にある利用者・家族が、この判決をもとにさらに自治体と交渉することになっていく。
しかし行政裁量が大きいのですんなりとは認められるこはないにしても、国の障がい者政策が立ち止っている現状では大きなインパクトを与えることになる。
なお、この男性は介護保険と自立支援法を併用していると思われるので、自立支援法の部分の拡大を命じられたということになるだろう。
合計21時間以上の介護サービスとは、一律に算出されたものではなく、あくまでもこの男性に限ったことだ。
ただ行政の一律的な判断が、法律の趣旨に反していると判断された意義は大きいし、認定制度を含めた今後の障がい者福祉サービスに与えるインパクトは計り知れない。
<以下引用>
◆ALS患者介護、1日21時間以上を市に命じる
2012年4月25日 読売新聞
和歌山市が介護時間を1日約8時間としたのは、障害者自立支援法などに違反するとして、同市在住の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の男性(75)らが、24時間介護と慰謝料100万円を求めた訴訟の判決が25日、和歌山地裁であった。
高橋善久裁判長は、市が介護保険(3・5時間)と合わせて1日約12時間としている提供時間を、21時間以上に引き上げるよう命じた。
ALS患者への介護サービス時間増を命じる判決は全国初という。もう1人の原告は昨年9月に死亡し、遺族が慰謝料請求を引き継いでいたが、判決は両原告側への慰謝料支払いは認めなかった。
判決などによると、男性は足の不自由な妻(74)と2人暮らし。人工呼吸器を管理し、頻繁にたんを吸引する必要があり、「24時間介護が必要」と主張していた。
高橋裁判長は「市の決定は障害程度や介護者の状況を適切に考慮せず、裁量権を逸脱、乱用しており違法」と判断。介護保険と合わせて1日21時間となる同17・5時間以上の介護サービス提供が必要だとした。
◆21時間以上の介護サービス義務付け 和歌山地裁判決
2012.4.25 産経ニュース
筋肉を動かす神経が徐々に侵されていく難病「筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)」を患う和歌山市内の70代男性2人が、和歌山市に24時間体制の介護サービスなどを求めた訴訟の判決が25日、和歌山地裁であった。高橋善久裁判長は「(1日約12時間とした)市の決定は合理性に欠き、患者の生命、身体、健康の維持に重大な危険が発生する恐れがある」などとして、提供時間を21時間以上に拡大するよう市に義務付ける判決を言い渡した。
原告側弁護団によると、ALS患者への介護サービス提供時間をめぐる司法判断は全国初。原告の1人は昨年9月に死亡しており、遺族が引き継いだ慰謝料請求の訴えは棄却された。
和歌山市は介護サービスの提供時間を1日約12時間と決めていたが、高橋裁判長は判決理由で「患者は寝たきりでほぼ常時、介護サービスを必要とする状態」と認定。介護時間について、「たん吸引や人工呼吸器の管理など生存に関わる介護の必要性や、70代の妻への負担を考慮すると、少なくとも1日21時間は必要」とした。
原告側は「緊急性がある」として、介護時間増の仮の義務付けも申し立て、和歌山地裁は昨年9月に20時間に増やすよう決定したが、大阪高裁が市の抗告を受けて決定を取り消し、最高裁も原告側の特別抗告を退けていた。
原告側代理人の長岡健太郎弁護士は「十分な介護サービスを受けられていない他のALS患者を勇気づける判決」と評価。和歌山市の大橋建一市長は「判決の詳細を把握していないので判決文を確認し、対応について検討していきたい」とのコメントを出した。
◆ALS介護延長、初の認定…和歌山地裁判決
2012年4月26日 読売新聞WEST
全身の筋肉が弱る筋萎縮性側索硬化症(ALS)で24時間介護が必要なのに、和歌山市がサービスを1日8時間としたのは障害者自立支援法に反するなどとして、同市の男性(75)が介護保険分と合わせて24時間介護となる1日21時間のサービスと、慰謝料100万円を求めた訴訟の判決が25日、和歌山地裁であった。高橋善久裁判長は「市の決定は裁量権を逸脱しており違法」として、1日17・5時間に引き上げるよう命じた。慰謝料請求は認めなかった。
ALS患者への介護サービス時間増を命じる判決は全国で初めて。男性の介護時間は、介護保険分と合わせて1日12時間から21時間に増える。
訴状などでは、男性は足の不自由な妻(74)と2人暮らし。頻繁なたんの吸引や人工呼吸器の管理が必要で、24時間介護を求めていた。
同市は「家族の介護が原則で、8時間以上は不公平になる」と主張していた。
高橋裁判長は、妻の状態などから21時間のサービスがないと男性の生命に危険があると判断。「市は障害程度や介護者の状況を適切に考慮していない」とした。
大橋建一市長は「判決文を確認して対応を検討する」とのコメントを出した。
男性は判決が出るまでの救済を求め、同地裁は昨年9月、サービスを1日16・5時間とするよう市に仮の義務付けをした。だが、市が抗告。大阪高裁は「緊急性が明らかでない」と取り消し、最高裁も今年2月に男性の特別抗告を退けた。
<以下、訴訟経過のエントリー>
全国初・ALS患者に「20時間介護」仮の義務付け命令 和歌山地裁 判決とは別に
<以下、NHK支局ごとのリライト>
◆ALS 介護拡充義務づけ判決
2011年04月25日 NHK大阪放送局 18時30分
筋肉が動かなくなる難病、ALS=筋萎縮性側索硬化症の男性が、介護サービスの拡充を求めた裁判で、和歌山地方裁判所は「男性はほぼ常時介護サービスが必要な状態だ」として1日21時間以上の介護サービスを提供するよう和歌山市に義務づける判決を言い渡しました。
この裁判は、難病のALSで寝たきりの和歌山市の70代の男性が、数時間ごとのたんの吸引や人工呼吸器の管理などが必要なため、市が決めた1日12時間余りの介護サービスでは不十分だとして市に1日24時間の介護サービスを求めたものです。
きょうの判決で、和歌山地裁の高橋善久裁判長は、同居している妻がいるなどとして1日24時間の介護サービスは認めませんでしたが、「男性はほぼ常時介護サービスが必要な状態で、現在のサービスでは生命や健康の維持に重大な危険が発生するおそれがある」として、1日21時間以上の介護サービスを提供するよう和歌山市に義務づける判決を言い渡しました。
介護サービスの時間は市町村が決めますが、ALSの患者に対する介護サービスの時間拡大を義務づけた判決は全国で初めてだということです。原告側の池田直樹弁護士は「裁判所が一定の判断を示したことは画期的で、全国の自治体にも大きな影響があると思う」と話していました。
和歌山市の大橋建一市長は、「判決文の内容を確認してから今後の対応を検討します」とコメントしています。
◆ALS介護訴訟 判決
2011年04月25日 NHK和歌山放送局 17時22分 (元記事)
筋肉が動かなくなる難病、ALS=筋萎縮性側索硬化症の男性が、和歌山市が決めた介護サービスの支給量が不十分だと訴えていた裁判で、25日、和歌山地方裁判所は「男性はほぼ常時介護サービスを必要とする状態だ」などとして1日21時間以上の介護サービスを提供するよう義務づける判決を言い渡しました。
この裁判は、和歌山市の70歳代の男性のALS患者が和歌山市が決めた訪問介護サービスの支給量が不十分だとして市に時間を増やすよう求めていたものです。男性は市から1日12時間余りの介護サービスを受けていますが、寝たきりの状態で数時間ごとのたんの吸引や人工呼吸器の管理などが必要で、障害者自立支援法に基づくものと介護保険によるものとあわせ1日24時間分の介護サービスが必要だとしていました。
判決で、和歌山地方裁判所のたか橋善久裁判長は、同居している妻がいるなどとして1日24時間の介護サービスは認めませんでしたが「男性はほぼ常時介護サービスを必要とする状態で、現在の支給量では生命や健康の維持に重大な危険が発生するおそれがある」として、これまでより少なくとも日に8.85時間増やして1日21時間以上の介護サービスを提供するよう義務づける判決を言い渡しました。
ALSの患者に対して、自治体が行う介護認定に関してサービスの支給量を増やすよう義務づけた判決は全国で初めてです。原告の弁護団の池田直樹弁護士は「自治体が判断する障害者の介護認定に関して、裁判所が一定の判断を示したことは画期的で、全国の自治体にも大きな影響があると思う」と話しました。
和歌山市の大橋建一市長は「判決文の内容を確認してから今後の対応を検討します」とコメントしています。
判決のあと原告の妻は「夫がALSになってから7年目になります。これまで大変でしたがちょっとでも(介護の時間が)増えたのでよかったです。(私が介護をしようにも)体がいうことを聞かないようになってきていましたので(助かります)」と話しました。
原告の弁護団の長岡健太郎弁護士は「24時間の介護サービスが認められていないのは残念だが、市に不十分な点があることや個別の事情を考慮した点が評価できる」と話しました。
<以下追加引用>
◆ALS:介護時間「延長を」市の対応批判…和歌山地裁判決
2012年04月25日 毎日新聞
難病の筋萎縮(きんいしゅく)性側索硬化症(ALS)の70代の男性患者=和歌山市=が、市に1日24時間の介護サービスの提供を求めた訴訟で、和歌山地裁(高橋善久裁判長)は25日、現行の1日あたり約12時間から、21時間以上に延長するよう命じる判決を言い渡した。原告弁護団によると、ALS患者を巡り公的介護サービスの時間延長を認めた司法判断は初めて。
判決によると、06年6月にALSと診断された男性は寝たきり状態で、70代の妻と2人暮らし。左足小指など体の一部しか動かず、人工呼吸器を付けている。
公的介護に加え、妻とヘルパーのボランティアにより24時間態勢で介護をしている。
男性は、障害者自立支援法と介護保険による24時間の介護サービスを求めてきたが、市側は「24時間の介護は必要ない」として、約12時間のサービスしか認定してこなかった。
判決はまず、男性について「ほぼ常時、介護者がそばにいる必要がある」と認めた。そのうえで、(1)妻は高齢で健康に不安がある(2)男性の人工呼吸器が正常に動作しているか頻繁な確認が必要(3)流動食の提供に細心の注意が必要−−などと指摘。
「少なくとも1日21時間はプロの介護がなければ、生命に重大な危険が生じる可能性が高い」と結論付けた。
1日約12時間という市側の決定に関しては「妻が起床中は、一人で全ての介護をすべきだという前提で、裁量権の逸脱だ」と厳しく批判した。【岡村崇】
◇
解説…自治体で運用に差
ALS患者への介護時間の延長を命じた今回の判決は、公的介護が不十分なために生命が危険にさらされないよう、行政側に柔軟な対応を求めたものといえる。日本ALS協会の金沢公明事務局長も「ALS患者には、24時間の介護が必要不可欠だ」と一定の評価をしている。
重い障害を抱える人に公費で介護を提供する「重度訪問介護」は、障害者自立支援法に基づくもので、具体的な介護の時間は市町村の裁量に任されている。
しかし、自治体間で運用に差があるうえ、財政支出を抑えるために上限を厳しくしている自治体もあるとの批判が、障害者団体などから出ていた。
判決を踏まえ、全国の自治体は、重い障害がある人に必要な介護サービスを提供しているか、改めて検証する必要があるだろう。
◆ALS訴訟 原告「勝訴」
2012年04月26日 朝日新聞和歌山版
◎「訪問介護21時間」評価/支援者ら歓声・拍手
少しでも時間が増えたらいい――。筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の介護をめぐる訴訟で、原告の男性患者の妻(74)は25日の判決後、会見で感想を求める報道陣に同じ言葉を繰り返した。ほぼ24時間、付きっきりの介護に加え、自身も足の具合が悪い。伴侶の難病と向き合った約6年の思いが言葉からあふれた。訪問介護時間を少なくとも21時間に増やすよう義務付けた判決に弁護団も「勝訴」と評価した。
午後1時すぎ、和歌山地裁の3号法廷。男性患者の妻や原告側弁護団と支援者らは、判決言い渡しを前に続々と廷内に入った。小柄な妻は、杖を右脇に置き、用意された長いすに浅く座って、両手をひざの上に乗せて背筋を伸ばした。
主文が読み上げられると、妻は口をひきしめ正面を見据えた。ヘルパーの訪問介護のサービス提供時間について、21時間を下回らないようにせよとの文言を聞くと、少し間をおいて、笑顔になって口に手を当てた。
裁判所の外では支援者らが判決を待った。法廷から出てきた原告側弁護団の2人が「勝訴」と書かれた垂れ幕を掲げると、歓声が上がって拍手がわき起こり、喜び合った。
午後2時すぎからは、和歌山弁護士会館(和歌山市四番丁)で原告側の記者会見があり、妻と池田直樹弁護団長らが出席した。
池田団長は「義務付けの判決が出たという意味では勝訴と言えるが、求めていた『24時間』の主張は認められず、中間的なものだった点には少し不満が残る」と述べた。和歌山市に対しては「早急に21時間を下回らない支給決定をして欲しい」と訴えた。
一方、判決に基づいて市が支給決定を見直しても、1日3時間は家族による介護をしなければならない点について、妻は「足があまりよくないが、それぐらいなら何とかなると思います」と語った。
会見後に同じ会場で開かれた報告集会には、二十数人が参加した。男性患者と同じく重度の障害がある県内外の車いすに乗った男性たちの姿もあった。
弁護団の長岡健太郎弁護士は、国会で審議中の障害者自立支援法の改正法案に触れ、「支援法に代わる法を作る第一歩になった」と話した。改正法案は、福祉サービスの対象になる障害の範囲に難病患者を加えることなどが柱だ。会場にいた障害者の男性は「判決が国に届いて早く法案が成立して欲しい」と語った。(雨宮徹、上田真美)
◎全国の患者らに勇気
寝たきりの祖母を約10年間介護した経験を持つ介護ジャーナリスト小山朝子さんの話
全国には「もっと介護時間を増やしてほしい」と考えている患者や家族がたくさんいるが、私を含めて
「訴えても棄却される」と声を上げなかった人が大半だと思う。今回の判決はそういった人たちの意見を司法が聞いてくれることを示してくれた。全国の患者や家族に勇気を与える判決だ。
◎「和歌山市は控訴断念を」/弁護団
原告側弁護団と男性患者の妻らは25日、和歌山市長らに控訴しないよう書面で求めた。
市障害者支援課の職員が対応した。原告弁護団の長岡健太郎弁護士が「原告にとって裁判の負担も大きい。判決を重く受け止め、控訴をしないという決断をすべきだ」と求めた。妻は「家に来て、本人の症状を見て決定して欲しい」と話した。
<以下追加引用>
◆市長、地裁判決受け入れ…ALS介護延長訴訟
2012年4月27日 読売新聞
和歌山市に住む筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の男性(75)が、市に介護サービスの時間延長を求めた訴訟で、大橋建一市長は27日、介護保険と合わせて1日12時間から21時間に増やすよう命じた和歌山地裁判決を受け入れ、
控訴を断念すると発表した。
男性の妻(74)は「市が判決を受け入れたのならば控訴しない」と話しており、判決が確定する。
大橋市長は、断念の理由を「男性の病気が進行性であることや、介護する家族の健康状態などを考慮した」と説明している。
◆ALS患者の21時間以上介護を受け入れ 和歌山市、控訴せず
2012/4/27 日経新聞
和歌山市の大橋建一市長は27日、難病の「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」を患う男性への1日21時間以上の介護サービス支給を市に義務付けた、25日の和歌山地裁判決について、控訴しない方針を明らかにした。
大橋市長は記者会見で「原告や原告の妻の健康状況を考慮して、厳粛に受け入れるべきだと判断した」と説明。
8千人を超す全国のALS患者への影響について「(原告と)同じような状況の患者へは支給時間が変わってくる可能性もあるのでは」と述べた。
和歌山市は再度ALS患者の状況を調査して、5月中に支給時間を決定する。〔共同〕
<以下引用>
なるほドリ:ALS訴訟の地裁判決の影響は? /和歌山
2012年04月29日 毎日新聞地方版和歌山
◇障害者の介護状況改善求めた 自治体は実態に即した判断を
なるほドリ 筋萎縮(きんいしゅく)性側索硬化症(ALS)を患う70代の男性(和歌山市)が市に1日24時間の介護サービスを求めた訴訟で、和歌山地裁が、現行1日約12時間から1日21時間以上に延長するよう命じる判決を出したね。これまで、男性の介護はどうしていたの?
記者 男性患者は左足の小指や眼球しか自力で動かすころができません。人工呼吸器を装着しており、痰(たん)の吸引や流動食の補給などを、妻とヘルパーの2人体制で行っています。市が公的介護として認めているのは1日12時間(介護保険も含む)。このため、残りの時間はヘルパーがボランティアで夜も滞在しています。
Q 訴訟ではどのような点が争われたの?
A 男性患者に24時間介護が必要か▽同居する妻がどれだけ介護することができるか−−などです。判決では、高齢の妻の健康状態などを考慮し、「少なくとも1日21時間はプロの介護がなければ、男性の生命に重大な危険が生じる可能性がある」と指摘されました。
Q 市町村から支給される介護サービス時間に不満を持つケースはほかにもあるの?
A
脳性まひの男性(43)が和歌山市を相手取り支給時間拡大を求めた訴訟が起こされましたが、1日18時間以上に拡大するよう命じた大阪高裁判決が昨年12月に確定しています。
Q 今回の訴訟は、今後どうなるの?
A 和歌山市は27日に控訴しないことを発表しました。
原告側はまだ、控訴について検討中ですが、妻は判決前の取材に「裁判に勝っても負けてももう終わりにしたい」と漏らしました。代理人も「市の判断は妥当」と受け止めています。判決が確定すると、市が改めて、支給時間について検討します。
Q 支給時間について見直しの動きはあるのかな?
A 支給時間は、各市町村が障害者自立支援法に基づいて決定します。現在、同法に代わる障害者総合支援法案が国会に提出されています。障害者区分によるサービス決定の見直しも検討されていますが、
支給時間が大きく変わることはなさそうです。ただ、和歌山地裁が障害者の介護状況を十分考慮するよう求めた意義は重く、和歌山市だけでなく、全国の自治体がより障害者の実態に即した判断を心がける必要があるでしょう。<回答・岡村崇>
<以下引用>
ALS介護時間義務づけ、判決確定へ 患者側も控訴せず
2012年5月1日 朝日新聞
和歌山市に住む筋萎縮性側索硬化症(ALS)の男性患者(75)に対し、1日最低21時間のヘルパーの訪問介護を市に義務付けた4月25日の和歌山地裁判決について、原告の男性側は1日、控訴しない考えを明らかにした。市もすでに控訴断念を発表しており、
地裁判決が確定する。
男性の代理人の弁護士らがこの日、和歌山市内で会見した。男性の介護時間を1日約12時間とした市の決定を違法と判断した地裁判決を「男性の健康状態や妻の介護の可能性などを検討した上で、市の裁量権の逸脱を認めた意義は大きい」と評価。訴訟では24時間介護を求めてきたが「男性の家族の意向もくんで判決を受け入れた」と述べた。
<以下追記引用>
◆和歌山市、1日21時間介護決定 ALS患者に
2012年5月29日 西日本新聞
難病の「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」を患う70代の男性への1日21時間以上の介護サービス支給を義務付けた4月の和歌山地裁判決を受け、和歌山市は29日、介護支給時間を現行の1日約12時間から約21・6時間に見直すことを決定した。
障害者自立支援法に基づいて、市が独自に決定できる支給時間を約10時間増やし、
介護保険分と緊急分とを合わせて約21・6時間に決めた。
判決確定後、市が男性の自宅を訪問して健康状態や妻の介護状況を調べ直し、審査会を経て決定に至った。市の担当者は「奥さんの健康状態も十分考慮して対応した」と話した。
◆介護給付21.5時間に増=ALS訴訟の判決受け-和歌山市
2012/05/29 時事通信社
和歌山市は29日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の70代の男性患者に対し、1日当たり21時間以上の介護サービス給付費を支払うよう市に命じた4月の和歌山地裁判決を受け、従来の1日約12時間分を変更し、約21.5時間分の支給を決定した。
昨年6月までさかのぼり支給する。
見直しに当たり、市は患者宅を訪問して再調査を実施。「判決を踏まえ、(介護者の)妻の健康状態などを考慮した」(市障害者支援課)としている。