介護職員のたん吸引、研修体系を了承- 厚労省検討会
2011年07月22日 キャリアブレイン
厚生労働省の「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」(座長=大島伸一・国立長寿医療研究センター総長)は7月22日、介護職員がたん吸引などを実施するに当たり、事前に受講する研修のカリキュラム案を了承した。厚労省はこれに基づいて省令案を策定、8月中にパブリックコメントを募集した上で、9月にも公布する予定。
厚生労働省の「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」(7月22日、東京都内) 一定の研修を受けた介護職員らがたん吸引などを行えるようになるこの制度は、6月に成立した改正社会福祉士及び介護福祉士法に盛り込まれており、来年度から施行される。
カリキュラム案によると、介護職員らが実施できるようになるのは、たん吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)と、経管栄養(胃ろう、腸ろう、経鼻経管栄養)。これらを実施するためには、講義とシミュレーターを使った演習から成る基本研修と、施設や在宅などの現場でたん吸引などのケアを行う実地研修の両方を受講する必要がある。ケアの対象者や職員の業務の必要性に応じて研修内容は異なる。
介護職員や既存の介護福祉士については、不特定多数の利用者を対象とする場合と、重度障害者など特定の利用者を対象とする場合に区別される。
このうち、不特定多数の利用者を対象とする場合はさらに、▽たん吸引と経管栄養について、対象となるすべての行為を行う▽気管カニューレ内を除くたん吸引と、経鼻以外の経管栄養を行う―の2類型に分けられる。どちらの場合も、基本研修として50時間の講義と演習を受講した上で、それぞれの類型で必要な実地研修を受ける。修了後に都道府県の認定を受ければ、登録された事業者でたん吸引などを実施できる。
一方、特定の利用者を対象とする場合は、重度訪問介護従事者養成研修と併せて20.5時間の基本研修と、その利用者に必要な行為についての実地研修を受ける。認定後は、その利用者に対してのみ、研修を受けた行為を実施できる。
また、2015年度以降に介護福祉士国家試験を受験する人については、専門学校などの養成機関で、受験までに基本研修を受講する。実地研修については「毎年十数万人もの受験者がいる」(厚労省担当者)ことから、資格取得後に登録された事業者で受けられる。取得前に実地研修を修了すれば、取得後にまた実地研修を受ける必要はない。
■登録事業者の要件、医療関係者との連携求める
たん吸引などのケアを実施する事業者は都道府県に登録する必要があり、登録要件が課される。具体的には、▽医師の文書による指示▽介護職員と看護職員との間での連携体制の確保や適切な役割分担―などの「医療関係者との連携に関する事項」と、▽たん吸引などの記録の整備▽医療関係者を含む委員会の設置やヒヤリ・ハット事例の蓄積―といった安全確保措置。
また、介護職員らを対象に基本研修と実地研修を行う研修機関の登録要件としては、▽たん吸引などの実務について医師や看護師らが講師となる▽都道府県に対して研修の実施状況を定期的に報告する▽研修修了者に関する帳簿を作成し保存する―ことなどを挙げている。
■法改正プロセス、「意見いただくべきだった」―宮島老健局長
前回の会合では、同検討会での最終的な取りまとめが行われる前に、改正社会福祉士及び介護福祉士法案が国会に提出された点について批判が続出した。これについて同日の会合で厚労省の宮島俊彦老健局長は、「途中の過程で事前に(委員に)はかるプロセスが欠けていた点については、意見をいただくべきだったと申し訳なく思っている」などと陳謝。その上で、「(制度の)円滑な施行については、厚生労働省において実施させていただくということでご理解いただきたい」と述べた。
(春之介のコメント)
・・・ということで、大騒ぎの顛末は事務局(厚労省)の推し切り逃げ勝ちになった。
本来ならば医療行為の再定義から初めて、医師・看護師業務の見直しといった昨今のトピックスまで踏み込めることもできたが、タッチすることはできなかった。
これで何が決まったかというと、介護福祉士法改正で吸引・経管栄養を介護福祉士ができるということが明記されたのみ。
その周辺に関する問題、例えば援助行為の拡大や関連職種の関わりなどは議論せず将来の運用で片づけることにしたいようだ。
もともとは家族や篤志の介護員が法解釈すれすれの行為をしないと、在宅医療が担えないといったことから端を発しているわけであり、彼らの行為の違法性ではなく、それほどの患者でも在宅で過ごせるという医学・技術の進歩によるものだ。
二つの場面で想定される事態が、来年4月から生ずる。
①特養などの施設での実施②在宅介護での実施。
①については、特養では今年4月からすでに実施されているから、来年4月からは新たに要件が厳しくなると予想される。また、その他施設では、どのように展開するかは未知数のところが現時点である。
②については、従来、患者団体などが行ってきた方式を限定的に採用する方法をとったが、大きな混乱はないと予想されるものの研修実施団体が全国でいくつ該当するのかが気になる点。現在、細々と行われている事業所や介護員が違法と断定されてしまうことになりかねず問題も起きる可能性は大きい。
そして、これを管轄するのは都道府県であり、どのように指導されるのかが当事者である都道府県にもさっぱり分かっていないはずだ。なぜなら、もともと医療行為に関しての権限がないからだ。
9月に発表されるとい省令は、研修の実施機関や方法について、また、都道府県の関与について決まることになるが、来年4月までに必要人数の研修が済むのかも分からない。
特に、これから登録制となるわけで、資格取得についての費用や研修参加の援助が施設や個人の負担となることが予想される。現時点では、その補助もなく介護報酬の上乗せも期待できない。
一方で、安全管理責任が大きく施設や事業者にはのしかかり、記録や保険の整備などを要求されることになる。今後は、それを嫌って利用者を入所させない特養等がさらに増える事態が予想される。
結局、何も決められなかった検討会委員からは落胆の声が漏れ、不満が山積し円滑な実施に対する協力が得られにくい環境となっている。一案にあったように、こうした吸引・経管栄養等を生活援助行為として、医療行為から切り離すことが恐らく法的整理にはスッキリするはずだが、医療系団体の反対は強かった。