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医療的ケア京都宣言とは!?

「医療的ケア京都宣言」
医療的ケアネットワーク全国シンポジウム京都宣言

前文

 退院の喜びとともに家庭や施設で行なうことを託された本人や家族、そして施設職員は、いま社会からの支援の少なさという大きな壁の前で立ちすくんでいます。管を通しての栄養摂取。吸引機を利用しての痰の吸引、酸素ボンベや人工呼吸器の利用。これら医療的ケアとよばれる行為は、退院時に家庭や施設でもできる行為として教えられたものでしたが、事前に家族以外のものがケアを行なえるか否かについての議論が十分に行なわれてきませんでした。

 教育の分野では1980年代後半からいくつかの教育現場で教員らによる実践が始まり、二十余年をかけ2005年に文部科学省による「盲・聾・養護学校における医療的ケア実施体制整備事業」が生まれ、一つの結実を見ました。しかし、事業が特別支援学校に限定した名称になっているため、通常学校・学級などで医療的ケアの実施がなかなか進んでいません。

 一方福祉の現場では、在宅で人工呼吸器を使用しながら人生を送られている患者さんらの働きかけにより、2004年に「家族以外のものでも、たんの吸引行為が実施可能である」という国の判断が出されましたが、さまざまな理由から、一部の志の高い事業者のみによってケアが行なわれているに過ぎません。また、通知の名称に「在宅における」とあるため、通所施設、入所施設、保育所など、福祉の分野では医療的ケアの取り組みが躊躇されています。
 しかも、通知で明記されている医療的ケアの範囲が、現在、在宅療養をしている人と家族に託されたケアの一部でしかないために、自宅以外の場所や吸引以外のケアを必要としちる人たちが、社会的応援をほとんど得られない状態が続いています。さらに、これらのケアに対する訪問診療、訪問看護といった医療支援は、全国どの地域でも不足しているという状況です。

 NPO法人医療的ケアネット主催の本シンポジウムは、いま医療的ケアに取り組む際に何が壁になっているのかを明らかにし、未来にむかって何をすべきかを議論するために、医療的ケアに関する活動をつづけている「NPO法人地域ケアさぽーと研究所」および「医療的ケアおーぷんんっとわーく*神奈川」の協賛を得て企画されました。

 今年9月に医療的ケアと自立を考えるシンポジウム実行委員会主催の『輝くいのち、誰もが「普通」に生きられるように』において、バクバクの会・編集長である平本歩さんの述べた「どんな生き方をして、どんな生活をしていくかは、自分で決めたい、その支援をしてほしい」という主張に、真摯に向き合い、答えを出すことがいま正に求められています。

宣言

はじめに
 私たち、医療的ケアネットワーク全国シンポジウム『地域・福祉・教育・医療から「医療的ケア」を問い直す』参加者は、医療的ケアを必要としている人に寄り添いながら、当事者の希望や夢に向き合うことが重要であること、一人ひとりが自分の生き方を主張し、お互いにその主張を最大限尊重し、精一杯、支えあう社会をめざすこと、誰もが「自立生活」および「快適生活」を求める権利があり、それが保障されるべきであること、医療的ケアの必要な人へ手をさしのべる行為に対して、十分な支援が与えられるべきであること、もっとも身近にいる家族や施設職員といえども、当事者の意志に反し、あるいは当事者の幸福に反した判断をすることがあってはならないこと、家族がケアを担うことで人生の余裕をなくさないように、家族を支える社会の仕組みが必要なことをここに確認し、以下を宣言します。

各方面への要望
一.私たちは医療関係者に対して、教育職や福祉職が医療的ケアに取り組むことに対する支援も地域支援の一環ととらえた上で、地域生活への移行に際しては、入院中より地域との連携をとりながら準備を行い、よりていねいな対応と責任ある外来フォロー体制を整え、必要な訪問系の医療システムの構築をすすめることを求めます。
一.私たちは、医療的ケアに関わることそのものに教育的意義があることを実証した教育関係者に対して、医療職との協働により、医療的ケアを必要としている子どもに寄り添いつづけることを求めます。
一.私たちは、あらゆる場面で地域生活をささえる福祉関係者に、福祉の制度から医療的ケアの必要な人を排除せず、積極的に医療的ケアの課題に取り組み、医療的ケア支援体制を当事者や家族とともに創造することを求めます。

行政機関への要望
〈私たちは地方自治体に対して、以下のことを求めます。〉
一.医療的ケアの必要な人の地域生活の可能性を排除せず、障害福祉計画に積極的に加えること
一.医療的ケアに関する厚生労働省通知の積極的解釈を行い、教育・福祉スタッフや地域住民によるケアへの取り組みを認知し、かつ支援すること
一.重度障害者医療制度において、在宅医療などの利用に地域差が生じないようにすること

〈私たちは国に対して、以下のことを求めます。〉
一.医療行為概念の整理をさらにすすめること
一.非医療職によるケアを認めないと国が判断する領域に関しては、医療制度そのものの責任で地域生活を支援し、決して家族のみにケアを押し付けないこと
一.訪問看護等のサービス提供場所の規定を見直し、教育・福祉といった地域生活の場へも適応を拡大すること
一.障害児者へ対応できる訪問看護ステーションを質・量ともに確保できるように、その報酬体形を改善すること
一.福祉における医療職の定着を図るために配置基準を明確にし、特に医療的ケア対象者が利用する際に医療的ケア対応加算等を組み込むこと
一.福祉施設においても、医療的ケアに関する通知と同等の条件を満たせば、福祉職による医療的ケアへの関わりが可能であるとの見解を示すこと
一.家族以外のものが、必要に応じて医療的ケア研修を受ける機会を増やすこと
一.重度訪問介護制度をさらに充実させるため、安定した経営に見合うだけの制度にすること
一.重度障害者包括支援制度への事業参加を促す施策を進めるとともに、医療保険制度を積極的に活用した「医療と福祉の連携による地域生活支援」の充実を図ること
一.医療的ケア支援を行なおうとする気概に見合うだけの経済基盤を、福祉領域で働いているスタッフに対して保障できる制度設計をすること

最後に
 私たちは、医療的ケアに関係する当事者、家族、ボランティア、専門職、行政職等として、医療的ケアに関する法律的な位置づけが、これほどあいまいな状況にあるにも関わらず、各自がそれぞれの理由をもちこの京都に集いました。
 近未来に、医療的ケアを誰もが知り、さりげなく支援し、かつ特別視しない社会が来ることを確信するとともに、連携を保ちながら、それぞれの立場で解決に向けて歩み続けることを、つまり、それぞれが決して孤独ではないことを確認しあい、この宣言に参加します。

2008年12月13日 「医療的ケアネットワーク全国シンポジウム」参加者一同
by negitoromirumiru | 2009-11-05 15:43 | 福祉 | Comments(0)


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